フィリピンは「英語が通じる国」と紹介されます。 しかし、家庭、学校、行政、職場のすべてで英語だけが使われているわけではありません。セブでは、Cebuano、Filipino、Englishが場面によって使い分けられています。 フィリピンの英語環境を正しく理解するには、「英語を話せる人の割合」だけを探すのではなく、英語がどこで、何のために使われているのかを見る必要があります。
要点
1987年フィリピン憲法は、コミュニケーションと教育に使用する公用語をFilipinoとEnglishの2つと定めています。
一方、フィリピンの国語はFilipinoです。 英語は国語ではありませんが、公用語として行政、法律、教育、ビジネスなどに使用されています。 地域言語については、各地域の補助公用語であり、教育の補助言語として利用できると憲法に規定されています。
法律上の位置づけ
| 言語 | 位置づけ |
|---|---|
| Filipino | 国語であり公用語 |
| English | 公用語 |
| 地域言語 | 地域における補助公用語・教育の補助言語 |
| Spanish・Arabic | 自発的・選択的に促進される言語 |
フィリピンを「英語だけの国」と説明するのは正確ではありません。 より正確には、フィリピンはFilipinoとEnglishを公用語とし、多数の地域言語が日常的に使われている多言語国家です。
背景とデータを読み解く
セブの日常語はCebuano
セブで家庭や地域の会話に広く使われているのはCebuanoです。 Cebuanoは、セブだけでなく、ボホール、ネグロス島の一部、レイテ島の一部、ミンダナオ島の広い地域でも話されています。 セブでは、日常会話のなかで「Bisaya」と呼ばれることもあります。 ただし、CebuanoとBisayaは、どの場面でも完全に同じ意味になるわけではありません。
- Cebuano:言語名として使われる
- Bisaya:より広い地域・言語・民族的呼称として使われる場合がある
- Binisaya:地域言語の呼称として使われる場合がある
セブの日常会話について説明する場合は、「Cebuano、現地ではBisayaとも呼ばれる」と書くと理解しやすくなります。
3つの言語はどこで使われる?
セブでは、一人の話者がCebuano、Filipino、Englishを場面によって使い分けることがあります。
| 場面 | 主に使われる言語の傾向 |
|---|---|
| 家庭・近所 | Cebuano |
| 地元同士の日常会話 | Cebuano |
| 全国向けテレビ・娯楽 | Filipino、English |
| 学校教育 | Filipino、English、地域言語 |
| 行政文書 | Filipino、English |
| 法律・契約 | Englishが多い |
| 大学・専門教育 | English、Filipino |
| 国際企業・BPO | English |
| 観光・留学生対応 | English |
これは、場所ごとに一つの言語が完全に分離しているという意味ではありません。 実際の会話では、Cebuanoの文章に英単語を入れたり、EnglishとFilipinoを切り替えたりします。相手、話題、職場、教育歴によって言語の組み合わせが変わります。
英語は「外国語」なのか
日本人にとって英語は、通常、外国語として学ぶ言語です。 一方、フィリピンでは英語が憲法で定められた公用語であり、学校の教科として学ぶだけでなく、他の教科を学ぶための言語としても使われます。 この違いは重要です。 例えば、英語を使って次の内容を学ぶ経験があります。
- Mathematics
- Science
- Technology
- Business
- Nursing
- Engineering
- Information Technology
つまり、英語そのものを学ぶだけでなく、英語を使って別の知識を理解し、説明し、試験を受ける環境があります。 これが、フィリピンの英語が教育や仕事と強く結びついている理由の一つです。
学校教育の言語制度はどうなっている?
フィリピンの初等教育における言語制度は、2024年に大きく変更されました。 2013年に成立したEnhanced Basic Education Actでは、KindergartenからGrade 3まで、母語を授業、教材、評価に使用するMother Tongue-Based Multilingual Educationが制度化されていました。
しかし、2024年10月10日に成立したRepublic Act No. 12027により、KindergartenからGrade 3まで母語を必須の授業言語とする制度は廃止されました。 現在は、FilipinoとEnglishを主な授業言語とし、地域言語を補助的に使用する制度へ移行しています。
| 時期 | KindergartenからGrade 3の基本方針 |
|---|---|
| 2013年の制度 | 母語を授業言語として使用 |
| 2024年の法改正後 | FilipinoとEnglishを主な授業言語として使用 |
| 一定条件を満たす単一言語クラス | 母語教育を選択的に実施可能 |
| 地域言語 | 補助言語として使用可能 |
母語教育が完全になくなったわけではない
Republic Act No. 12027は、すべての母語教育を禁止した法律ではありません。 単一の母語を共有するMonolingual Classでは、条件を満たせば母語を授業言語として使用できます。 法律が示す主な条件は次のとおりです。
- 公式の正書法がある
- 辞書や用語集などの語彙資料がある
- その言語による教材や文学資料がある
- 文法書がある
- 母語で教えられる訓練済み教師がいる
- 学級内の児童が同じ母語を使用している
複数の言語背景を持つ児童が同じ教室にいる場合、どの母語を授業言語にするかが難しくなります。 今回の改正は、こうした教室の言語構成、教材不足、教師配置などの問題を踏まえた制度変更です。
授業と日常会話は一致しない
学校でEnglishを使っていても、休み時間や家庭でCebuanoを使うことは珍しくありません。 反対に、英語の授業時間が長いからといって、すべての家庭で英語が使われているわけでもありません。 セブの言語環境は、次の3層に分けると理解しやすくなります。
| 言語の層 | セブでの主な役割 |
|---|---|
| 地域言語 | 家庭、地域、感情に近い会話 |
| 国語 | 国内の異なる地域をつなぐ会話 |
| 公用語としての英語 | 教育、行政、専門職、国際業務 |
英語が広く使われる背景には、家庭で英語を母語としている人が多いからではなく、教育と社会制度のなかに英語が組み込まれていることがあります。
識字率97%は英語力の数字ではない
フィリピン統計庁による2020年人口住宅調査では、5歳以上の人口97,600,336人のうち、94,627,566人が識字能力を持つとされました。 識字率は97.0%です。 しかし、この数字を「フィリピン人の97%が英語を読み書きできる」と説明してはいけません。 調査でいう識字能力は、次のように定義されています。
いずれかの言語または方言で、簡単な文章を読み書きできること。 Cebuano、Filipino、Englishなど、使用言語は限定されていません。
| 公表数字 | 正しい意味 | 意味しないこと |
|---|---|---|
| 識字率97.0% | 何らかの言語で簡単な文章を読み書きできる | 97%が英語を読み書きできる |
| Englishが公用語 | 公的なコミュニケーションや教育に使われる | 全員が同じ英語力を持つ |
| 学校でEnglishを使用 | 英語で教科を学ぶ機会がある | 全授業が英語だけで行われる |
数字の定義を確認しないまま「英語力」に置き換えると、実態とは異なる情報になります。
判断材料と要点を整理する
「英語を話せるフィリピン人は何%」に正解はある?
フィリピン人の何%が英語を話せるかについて、さまざまな数字が紹介されています。 しかし、調査によって「話せる」の定義が異なります。
- 簡単な会話ができる
- 英語を理解できる
- 学校で英語を学んだ
- 仕事で英語を使用できる
- 英語を家庭で使っている
- 英語の試験で一定点数を取った
これらは同じ能力ではありません。 また、自己申告、国勢調査、民間試験の受験結果では、対象者も測定方法も異なります。 そのため、調査名、実施年、対象年齢、評価方法を示さずに「フィリピン人の○%が英語を話す」と断定するのは適切ではありません。
英語力には個人差と場面差がある
英語が公用語であることと、すべての人が同じ水準で英語を使えることは別です。 英語の使用経験は、次の条件によって異なります。
- 受けた教育
- 居住地域
- 家庭で使う言語
- 職業
- 英語を使う頻度
- 読む、書く、聞く、話すの違い
- 会話する相手や話題
専門的な文章を書ける人が、日常会話を好まない場合もあります。接客英語を流暢に話せても、法律や医学の語彙は別の能力です。 留学先としてフィリピンを見る場合も、国全体の平均値より、実際に教える教師の英語運用力と指導力を確認する必要があります。
セブ留学で接する英語
セブ留学で学習者が接する英語は、主に語学学校の教師が教育のために使用する英語です。 街で使われる英語と、授業で使われる英語は同じではありません。
| 場面 | 英語を使う目的 |
|---|---|
| 語学学校 | 説明、訂正、発音練習、会話訓練 |
| ホテル・観光施設 | 接客、案内、予約確認 |
| IT・BPO企業 | 顧客対応、業務報告、国際取引 |
| 大学 | 講義、教材、試験、研究 |
| 行政・法律 | 文書作成、制度説明、契約 |
街で英語が通じることは、生活上の利点です。 しかし、留学の学習成果を決めるのは、国の公用語制度だけではありません。教師の採用、研修、教材、授業時間、訂正方法などが重要になります。
英語関連データを読む5つの確認項目
フィリピンの英語力に関する数字を見るときは、次の点を確認します。
- 調査対象は国民全体か受験者だけか
- 「英語を話せる」の判定基準は何か
- 自己申告か試験結果か
- 読む・書く・聞く・話すのどれを測ったか
- 全国値か特定地域の数字か
民間英語試験の順位は、受験した人の結果です。人口全体の英語力を直接示す国勢調査ではありません。
まとめ
フィリピンの国語はFilipinoであり、憲法上の公用語はFilipinoとEnglishである。 Cebuanoはセブの家庭や地域で広く使われる言語で、現地ではBisayaと呼ばれることもある。 2024年成立のRepublic Act No. 12027により、KindergartenからGrade 3まで母語を必須の授業言語とする制度は廃止され、FilipinoとEnglishを主に使用する制度へ変更された。
母語は、一定条件を満たす単一言語クラスで選択的に授業言語として使用でき、地域言語は補助言語としても利用できる。 2020年のフィリピンの識字率は97.0%だが、これは何らかの言語で簡単な文章を読み書きできる人の割合であり、英語識字率ではない。
参考情報
情報確認日:2026年8月29日
主な確認先: